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QGISの実践者になるために。『位置情報を扱う人のための実践QGIS』の紹介

投稿日: 最終更新日:

この記事でわかること


  • 『実践QGIS』のコンセプト
  • 『実践QGIS』の読み方
  • GISの学び方

こんな人におすすめ


  • 地図を紙で管理している全ての人
  • GISを組織に導入したい人

『位置情報を扱う人のための実践QGIS』

北海道でGISエンジニアをしている井口奏大(いぐちかなひろ)です。このたび秀和システム様より『位置情報を扱う人のための実践QGIS』というタイトルで書籍を出版いたしました。

「養成講座シリーズ」の『位置エン本』『位置ベロ本』に次ぐ3作目となります。本書は『実践』シリーズとなります。

執筆の背景

『位置エン本』『位置ベロ本』はエンジニア向けのWebGISに関する解説書で、これらは大変ニッチな分野の書籍でしたが、特に前者は一定のご評価をいただけているようです。一方、私が位置情報技術に傾倒するようになったきっかけはQGISであり、執筆の機会を望んでいました。出版社の方とやりとりを重ね、QGISに関する書籍執筆の機会を頂き、出版に至っております。

Amazonで書籍カテゴリで「qgis」と検索した結果(2025/06/20)
Amazonで書籍カテゴリで「qgis」と検索した結果(2025/06/20)

前2作と今回の『実践QGIS』との違いは、後者ーQGISに関する書籍には先行事例がすでに存在していることです。WebGISに関する技術書は、少なくとも日本語のものは「無い」と言える状況でしたので、差別化について悩む必要はありませんでした。他方、QGIS本は先行事例が多数存在しているため、どのようにユニークな書籍とするかに思いを馳せ構成しました。

書籍のコンセプト

QGIS本の先行事例を眺めていると、①網羅的に使い方を解説するもの②特定のトピックをテーマとしたものの2種類に大別できそうなことがわかりました。これらとは一線を画すものであるべきと考え、『実践QGIS』は以下を主題に構成されています。

1. QGISがGIS利用の障壁を取り去ったこと2. GISは簡単ではないが、恐れるほど難しくもないこと3. GISを活用するとどんな嬉しいことがあるのかを伝える

QGISの「操作マニュアル」のようなものは書くつもりはなく、というのは、そういった先行事例もありますし、何よりGIS自体が「簡単ではない」ため、説明書を読んだだけで使えるようにもなるものでもないと考えているためです。

厳密には、何度も読み返して内容を記憶すれば使えるはずですが、膨大な数の機能をすべて覚えなくてもGISは十分便利に使えるので、「手を動かして覚える」のが早いと考えています。ゆえに、『実践QGIS』にも操作説明はありますが、重要な機能に絞って説明しています。

QGISも公式でマニュアルを出しているが、1637ページ…。機能の多さがわかる。(https://docs.qgis.org/3.40/pdf/en/QGIS-3.40-DesktopUserGuide-en.pdf より引用)
QGISも公式でマニュアルを出しているが、1637ページ…。機能の多さがわかる。(https://docs.qgis.org/3.40/pdf/en/QGIS-3.40-DesktopUserGuide-en.pdf より引用)

本書では、操作方法ではなく「GISを活用するとどんな嬉しいことがあるのか」を伝えたいと強く考えています。前半は操作説明で、後半の実践編ではさまざまなトピックにハンズオン形式で取り組みます。特定のトピックを深く掘り下げるのではなく、GISを日常的に利用する際に頻出の、以下のトピックを幅広く揃えています。

  • ハザードマップを作る
  • 紙の地図をGISデータ化する
  • 法務省登記所備付地図を利用する
  • 衛星データを活用する
  • ベクターデータによる分析を行う
  • 地形解析の手法を学ぶ
  • 点群データの取り扱い

本書を読めばQGISを「マスター」できる…ということはありません。繰り返しですが、QGISは本質的に「簡単ではない」ものなので、手を動かして理解していくものです。ただ、何に便利なのかもわからない中では、学ぶモチベーションも湧かないはずです。GISが便利であり・日々の作業の効率が良くなると理解できれば、「簡単ではない」GISであっても頑張って勉強するはずです。

「GISは難しい」というイメージがあるかもしれません。実際、GISには独特の概念がたくさんあって、初学者にとって簡単ではないことは事実です。ですが先ほどの表計算ツールの例で言うと、表計算も間違いなく簡単なソフトウェアではない考えています。セル、相対参照、書式、ピボットテーブル、関数…、独特な概念が多数存在します。このことから私は表計算もGISと同じくらい難しいし、GISは表計算くらい簡単であると述べます。 GISくらい難しい表計算でさえ実に多くのユーザーがいるのですから、ソフトウェアの難しさは問題ではなく、「GISを使うと何がうれしいのか・どう便利なのか」が理解されていないということが利用の障壁となっていると考えています。使い道を知れば・便利であることがわかれば、もっとたくさんの人がGISをがんばって使うようになると信じています。

『位置情報を扱う人のための実践QGIS』まえがきの4ページより引用

想定読者

『位置エン本』『位置ベロ本』はエンジニア向けの技術書でしたが、本書はQGISを学ぶための書籍ですので、地図・GISにまつわる全ての人が読者となりえます。とくに:

  • 地図を紙で管理している全ての人
  • GISを組織に導入したい人

といった方々には特に有益な書籍となると考えています。

おすすめの読み方

前述のとおり、本書はGISがどう便利であるかを伝えるための書籍です。手を動かしながら読み進める、というよりは、まずは一通りパラパラと通読して、概観を掴むことをおすすめします。その後はQGISをインストールして、実際にデータを表示してみてください。きっと必ずしも「説明書」がなくても操作できる部分があるでしょう。もちろんそうでない部分もあるので、その時は本書の操作説明を読んでみてください。

QGISの準備が整ったら、実践編から自身の関連のあるトピックを選んで手を動かしてみましょう。すると「自分の持っているデータならどうなるんだろう」「書籍には書いてないけどQGISではこういう操作も出来そう」などの気づきがあるはずです、ぜひトライしてみてみましょう。書籍に書いてある「基本」を学び、自分自身のユースケースで「実践」していきましょう。

この本を読んだあとは

FOSS4G(フォスフォージー)

OSGeo日本支部

QGISをはじめとした、オープンオースの地図ソフトウェアに関するコミュニティが存在します。各地でイベントも開催されていますので、ぜひ参加してみましょう。最新情報や活用事例など、新たな学びが得られるでしょう。

『位置エン本』『位置ベロ本』

地図に関するWebアプリケーションの開発に興味があれば、2025年6月現在で唯一の日本語の書籍です。

QGIS研修

株式会社MIERUNEの「QGIS研修」では、入門向けのほか、やや難易度が上がる中級編も実施しているので、本書を学んだあとのステップアップにおすすめです。また、組織のニーズに応じたオーダーメイドの研修も可能ですので、QGISの組織導入を推進する場合にさらにおすすめできます。

終わりに

本書により日本のQGISユーザーがひとりでも増えれば喜ばしい限りです。最後に再度まえがきを引用します:

あらゆる用途で便利に活用できる汎用的なソフトウェアであると確信しています。決して、一部の特殊な業務に・一部の専門家だけが使うものではありません。

『位置情報を扱う人のための実践QGIS』まえがきの3ページより引用

GISは「地図」を作るためだけのツールではありません。想像以上に汎用的で、さまざまな目的に利用できます。これまで高価で一部の専門家だけが利用してきたGISは、QGISにより「民主化」されました。誰しもGISに手が届く時代です。今こそGISを日常に取り入れて位置情報データの活用を始めましょう。

この記事を書いた人
MIERUNE Inc. 井口 奏大
MIERUNE Inc. 井口 奏大

大学卒業後に就職した市役所の業務でGISに触れたことをきっかけに、位置情報の世界へ入門。その後、北海道札幌市の株式会社MIERUNEにてGISエンジニアとして従事、2023年から同社執行役員CTO。オープンソース開発の傍ら、技術系イベントでも多く登壇。MapLibre User Group Japanの運営メンバー。

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