
QGIS 3.0 から 3.32 までの進化をふりかえる(最新バージョンのすすめ)
この記事でわかること
- 現行バージョンのQGISのこれまでの発展
こんな人におすすめ
- QGISの新機能に興味のある方
- QGISの機能の変遷に興味のある方
はじめに
2018年2月に QGIS 3.0 が公開されてから約5年が経ち、2023年8月の時点でQGISのバージョンは 3.32 にまで達しています。今回の記事では「QGIS 3.x」の進化をふりかえることで、見過ごされがちな新機能や便利な改良点を振り返ってみます。日頃QGISを活用している方でも新たな発見があるかもしれません。また、古いQGISをお使いの方には、ぜひこの機会に最新バージョンへのアップデートをおすすめします。目新しい機能だけでなく、バグの減少や性能向上、ちょっとした改良なども多く、それらによる作業効率の向上は無視できません。
それでは QGIS 3.x での進歩(の一部)を紹介していきます。
新たなデータソースに対応
QGIS 3.x では新たに以下のようなデータソースに対応しました。
メッシュデータに対応
QGIS 3.2 から、気象データ、水流、地形 (DEM)、等々の表現に使われる各種「メッシュデータ」の取り扱いに対応しました。巨大なメッシュデータを高速に表示できるほか、時系列情報も扱えます。

QGIS 3.12 ではベクトルの表示機能が強化され(メッシュレイヤのベクタトレースアニメーションとストリームライン)、 QGIS 3.22ではQGIS上でメッシュを編集できるようになるなど改善が続けられています。
点群データに対応
QGIS 3.18 から点群データを読み込めるようになりました。その後、QGIS 3.20ではリモートデータセット(EPT)のサポート、QGIS 3.22では 点群のフィルタリング や クラウド最適化点群(COPC)のサポート、QGIS 3.32 ではネイティブ実装の点群処理用プロセシングアルゴリズムや仮想点群(VPC)のサポートが追加されるなど、精力的な機能強化が行われています。
ベクタタイルに対応
以前からラスタータイルは利用できましたが、QGIS 3.14 からベクタタイルの表示にも対応しました。MapboxのJSONスタイル定義を取り込むこともできます(QGIS 3.16)。ベクタタイルを生成するプロセシングアルゴリズムも同時に追加されていますし、最近ではベクタタイルの地物を選択できる機能(QGIS 3.28)や、タイルを一括保存するアルゴリズム(QGIS 3.32)も追加されています。
その他
- QGIS 3.24では、ラスタタイルで地形 (DEM) データを表現する Terrain RGB 形式のラスタタイルに対応しました。
- QGIS 3.30では、ラスタレイヤの値に別表で意味を与えられる「ラスタ属性テーブル (RAT) 」に対応しました。
- PostgreSQL、Oracle、WMS/WMTS、ArcGIS MAP などの外部のデータソースとの連携機能についても、着実に強化・改善されている様子が見受けられます。
座標変換の大幅な改善
QGIS 3.8で、座標変換処理の大幅な改善が行われました。それまで独自に行っていた座標変換の管理を廃止して、QGISが背後で使っている PROJ というエンジンに最適な変換方法の提示を委ねるようになりました。
日本での分かりやすい恩恵の例としては、JGD2000 ⇔ JGD2011 間の変換をする際に、グリッドシフト(東北地方太平洋沖地震の補正パラメータ)を伴う変換を選択できるようになったことが挙げられます。手元にグリッドシフトファイルがない場合は警告が表示され、ボタンをクリックするとインストールできるようになっています(下図)。

パフォーマンス改善による快適さ
- QGIS 3.18 では、マップを動かした際の再描画が改善されました(よりスマートな地図の再描画)。チラツキが少なく、よりストレスの少ない動作が実現されています。
- QGIS 3.4 では 一部のラスタ処理や表示などで OpenCL による高速化ができるようになりました。QGISのオプションの「高速化」で有効化できます。
- Pythonで記述されていたプロセッシングを高速なネイティブコードで書き直す改善も複数なされてきました。
などなど、性能面を改善する細かな修正はほかにも沢山行われています。重いデータを扱っている方は特に違いを感じやすいかもしれません。
ベクタのジオリファレンスに対応
QGIS 3.26で、ベクタレイヤもジオリファレンサでジオリファレンスできるようになりました。また、QGIS 3.18では、ジオリファレンサのキャンバスを回転できるようにもなっています。
作業効率を上げるユーザインタフェース
細かな操作性の改善がたくさん行われています。ごく一部を紹介すると:
- よく使う地図の表示範囲を登録しておける「空間ブックマーク」がQGIS 3.10で強化されました。3.2 で追加された ロケーターでのブックマーク検索 と組みあわせて使うと、キーボード操作一発で目的の地点に移動できます。3.32 では、マップの回転方向も保存できるようになりました。
- QGIS 3.8 では、複数のレイヤを選択した状態で「レイヤの領域にズーム」できるようになりました。全選択レイヤが表示されるようにズームされます。
- 属性テーブルの改良例:
- QGIS 3.14 では、「属性テーブルをドックウィンドウとして開く」設定にすることで、属性テーブルがタブで開かれるようになりました。複数の属性テーブルを操作する際に便利です。
- QGIS 3.24 では、属性テーブルで「全カラムの幅を自動設定」と「全カラムの幅を設定」ができるようになりました。
- QGIS 3.28 では、レイヤ凡例の分類値を右クリックして「属性テーブルに表示」を選択することで、その分類値でフィルタリングされた状態で属性テーブルを表示できます。
- 地物情報表示の改良例:
- QGIS 3.28 では 地物情報表示のNULL値を非表示にする設定が追加 されました。NULL値を大量に含むデータを扱う際に便利です。
- QGIS 3.30 では クリックなしでマウスホバーだけで地物情報表示 するオプションが追加されました。
印刷レイアウトの表現力向上
「印刷レイアウト」も改良点が多いようです。たとえば:
- QGIS 3.8 では方位記号(北向きの矢印)をボタン1つで作れるようになり、3.14ではさらに任意のシンボルをマップの向きと同期できるようになりました。
- QGIS 3.14 は 印刷レイアウトへの画像の直接貼り付けをサポート しました。
- QGIS 3.18 では 連続値の凡例をグラデーションで表示できるようになりました。
などなど、今一歩だったところに手が届くような改善がたくさん行われています。
シンボロジ・表現能力の強化

地図を魅力的に見せるための表現能力も向上しています。シンボルに関する例としては:
- QGIS 3.26 では 「アニメーションマーカー」シンボル によってGIFアニメーション画像をマーカーとして使えるようになりました(上図例)。また従来のシンボルにアニメーションを加えることもできます。
- QGIS 3.24 では 「ラスターライン」シンボル によって、ラインを指定した画像で塗れるようになりました(上図例)。
- QGIS 3.18の動的SVGのサポートでは、SVGマーカの内容をエクスプレッションで制御できるようになりました(上図例)。工夫次第でかなり高度な表現ができそうです。
また、ラベルに関する改善例としては:
- QGIS 3.10 でラベルをHTMLで着色する試験的な実装がなされ、3.28 ではHTMLで太字、イタリック、font-family, font-sizeの指定もできるようになっています。
- QGIS 3.20 ではスピーチバブル形や曲線状の引き出し線が追加されました。
- QGIS 3.20 ではラベルの引き出し線の原点をラベル移動ツールで動かせるようになり、3.26 では ライン上のラベルをラインに沿って動かせるようになるなど、表示の調整もしやすくなっています。
デジタイズ(ジオメトリの編集)も快適に
- QGIS 3.20や3.22などにおいてジオメトリ編集の「スナップ」機能の処理が大きく改良され速度が圧倒的に向上しました。スナップのための処理でQGISが固まるようなことはなくなりました。
- QGIS 3.8 では、LineString の終点から続きを追加していくのが容易になりました。
- QGIS 3.20 では 「ストリーム・デジタイジング」でフリーハンドでの入力ができるようになったほか、ポリゴンで頂点を選択する機能 や、線の端点にスナップする機能などが追加されました。
などなど、入力(デジタイズ)周りの柔軟性も着実に進歩しています。
プロセシング
ここでは紹介しきれないほどの沢山のプロセシングアルゴリズムが追加されています。個別のアルゴリズムではなく、プロセシングフレームワーク全般の改善の例を挙げると:
- QGIS 3.4では、 選択中の地物に対して一部のアルゴリズムを「その場で(新たなレイヤを作らずに)」適用できるようになりました(その場で (In-place) 編集モード)。
- QGIS 3.32では、プロセシングの入力となるベクタレイヤに地物フィルタを設定できるようになりました。
- QGIS 3.14 では、モデルデザイナーに様々な機能強化が行われました。
- QGIS 3.4で、 そのプロジェクトでしか使わないようなモデルをプロジェクト内に保存できるようになっています。
また、QGIS 3.8での XYZラスタタイルの生成アルゴリズムを刷新など、既存のアルゴリズムに対する改善も多々行われています。
高さ・3D情報への対応強化
点群やメッシュ、Z値付きのベクタレイヤ、などの3次元的なデータへの対応が進むのにあわせて、それらのデータを可視化する機能も強化されてきています。
標高断面図プロットの追加
QGIS 3.26 でネイティブの標高断面図ツールが搭載されました。ベクタ、ラスタ、メッシュ、点群、の各レイヤを混在させた標高断面図を生成できます。QGIS 3.30からは 印刷レイアウトに標高断面図を載せることもできます。こちらの記事で詳しくご紹介しています。
3Dマップビューの強化
各種三次元データのための「3Dマップビュー」も強化されています。以前は安定性に問題がありましたが、現在のQGIS 3.32 では比較的大きなデータでも表示できることが多いようです。3Dシーンを一般の3Dアプリケーションで扱える形式でエクスポートする機能(QGIS 3.16)もあるほか、可視化のための表現も色々と強化されていて、たとえば点群のサーフェス表示(QGIS 3.26)などもできます。
3D Tilesや垂直CRSにも対応予定
CesiumJSなどの3Dの地理空間可視化で使われている「3D Tiles」をQGISで読み込む機能が次期 QGIS 3.34 で実装される予定です。また、3Dデータを正しく扱ううえでの懸念だった 垂直CRSへの対応 も3.34で予定されているなど、3D周りへの投資による機能強化が進んでいます。
地道なバグ修正
QGIS の変更記録には 「Notable Fixes(注目すべき修正点)」として多くのバグ修正が記載されています。これらの地道な努力によって、不安定さやおかしな挙動はバージョンを追うごとに減っている印象です。
破壊的な変更は少ない
たくさんの改善や機能追加がなされている一方で、利用者のバージョンアップを妨げうる「破壊的変更」は、QGISのVisual Changelog には 2つしか記載されていません。
- QGIS 3.26 での DB2サポート削除
- QGIS 3.28 での QGIS 3.16以前のシンボロジのためのプロジェクト下位互換性の削除
おわりに
今回の記事では、QGIS 3.0 から QGIS 3.32 までのQGISの進化をふりかえって紹介してみました。もちろん変更点は多岐に渡るため、ここでは触れられなかった機能もたくさんあります。目立つような新機能だけでなく、多くの方が日々使うような機能も細やかに改善されており、安定性や速度も増しているので、古いQGISを使われている方はぜひ最新版のQGISのインストールを試してみてください。
もし、組織で使われているQGISのバージョンアップでお困りの場合は、MIERUNEがサポートいたしますので、お気軽にご相談ください。