標高断面図ツールの使い方 〜活用事例も紹介〜
この記事でわかること
- QGISの「標高断面図」の使い方
- QGISの「標高断面図」のユースケース
こんな人におすすめ
- 標高断面図ツールの使い方を知りたい方
- QGISで断面図としてデータを可視化したい方
はじめに
QGIS 3.26から標準機能に実装された標高断面図(Profile tool)は、手軽に標高データなどから断面図を作成することができる便利ツールです。標高断面図を作成できるデータ形式はベクタ、ラスタ、メッシュ、および点群となっており、さまざまなデータの断面図を作成できます。
この記事では、さまざまなデータの断面図を作成してみたいと思います。
背景地図:MapTiler © MIERUNE © MapTiler © OpenStreetMap contributors
標高データ:地理院タイル (標高タイル)を加工して作成
標高断面図ツールの使用方法
標高断面図ツールは、メニューバーより、「ビュー」→「標高断面図」から開くことができます。
標高断面図ツールを利用するには、DEMなどの高さ情報を持つレイヤのプロパティで「標高サーフェスを表示」にチェックを入れておく必要があるので、事前に設定しておきましょう。
設定後、マップキャンバス上で線を引けば、断面図が表示されます。
なお、標高断面図ツールの基本的な使い方は、YouTube動画「QGISの標高断面図機能を使ってみよう / QGISオンラインセミナー」でも紹介しているので、興味のある方はご覧ください。
さまざまなデータの断面図の作成
では、ここからさまざまなデータの断面図を作成してみます。
地形データ
河川の標高変化
最も基本な使い方ですが、札幌市のDEMデータと豊平川のラインデータを使用して、河川の標高変化を表示しています。
日本列島縦断
日本列島縦断ということで、糸魚川-静岡構造線をなぞるように南北の断面をみてみます。
北側の糸魚川方面では海岸線から近い距離で標高が急激に高くなっている一方、南側の静岡方面では海岸から30kmほど内陸まで低地が広がっているのがわかります。
日本海側から南向きに見た3D鳥瞰図(qgis2threejsプラグインを使用して作成。高度は10倍強調)。実際に海岸線すぐ近くから急峻な山々が連なっています。
冬季には、この急峻な山脈に日本海からの湿った風がぶつかって大雪を降らす要因にもなっています。
日本最大のカルデラ
カルデラというと熊本県の阿蘇山が有名ですが、日本最大のカルデラは実は北海道にあります。場所は北海道東部、弟子屈町にある屈斜路カルデラ。その直径は東西で約26km(阿蘇山は約20km)。その断面図はこちら。
カルデラ湖内の中島や南東側のアトサヌプリ、屈斜路カルデラのお隣にある摩周湖を形成する摩周カルデラも綺麗に捉えています。ちなみに3D鳥瞰図で現地を確認するとこのような感じです(高さは5倍強調)。
点群データ
続いて、点群データの断面図です。
今回利用するデータはG空間センターで公開されているVIRTUAL SHIZUOKA 静岡県 富士山南東部・伊豆東部 点群データですが、ご自身のデータでも試してみてください。
まずは、3Dビューで点群データを確認しましょう。川、橋、河岸に建物が広がっているのが分かります。
標高断面図ツールを開き、建物を巡って、橋を渡るラインを「曲線キャプチャ」で描きます。そしてシンボロジはZ値によって設定し、標高値の高いところは黄色で低いところを青色で色付けます。標高関係を正確に表すために、DEMを灰色の塗りつぶしとして入れています。
川底も取得されているデータを使うことで、川の断面が確認できるので、それによって簡単な測量も可能です。
海底地形
今度は海底の地形断面を見てみましょう。海底地形の標高データはGeneral Bathymetric Chart of the Oceanより取得したデータで断面図を作成します。
赤道
まずは赤道を基準に真っ二つにしてみたいと思います。
海底地形と言いつつ、こちらのデータは陸地部分の標高もあるので、陸上と海底の様子が一緒にわかります。また、ピクセルサイズは約30秒(赤道付近で約1km)なので、大陸棚のような細かい地形まで表現できず、大陸の縁が綺麗に崖になってますね。南アメリカ大陸の西側はアンデス山脈の北側にあたり、4,000m以上の「壁」になっていることがわかります。
こうしてみると、大陸部分に比べて海底の地形というのは比べ物にならないくらい凹凸が激しいことがわかりますね。それほど地表は風化・侵食作用が働いているということでしょうか。
気圧配置
断面図を作れるのは何も地形だけではありません。次は、気象に関する断面図です。こちらは2024年2月6日3時の地上気圧の断面。この数時間前、日本の南に低気圧が通過し東京に雪をもたらしました(『関東 大雪の峠を越えるも 今日6日も昼頃まで雪や雨 最高気温5℃前後と厳寒』 tenki.jpより)。
また、こちらは同時刻の850hPa面の南北成分風速の断面図です。(*データは、DIASが提供する「GPV Data Archive」より入手、加工しました。)値が0以上のエリアでは南風(北向きの風)が、0以下のエリアでは北風(南向きの風)が吹いているのですが、低気圧の西側では北風が、東側では南風が強く吹いているのが断面を見てもよくわかります(図中の矢印は風のおおよその向きを示す)。
南からの暖かく湿った風と北からの冷たい風がぶつかることで低気圧がより発達したり、寒気が入り込みやすい状況になったのも降雪に見舞われた要因の一つと思われます。
東海道新幹線沿線人口
標高断面図ツールで断面を作れるのは何もラスタデータだけではありません。ベクタデータの属性の数値に応じた多い少ないも示すことができます。
次の図は、東海道新幹線沿いの人口を断面図で示してたものですが、人口データはメッシュ状のポリゴンデータで属性値としてメッシュ内の居住人口数を保持しています。その数値を東海道新幹線の鉄道線ラインデータに沿って示しています(*人口データはe-Statから2020年国勢調査3次メッシュ人口を、東海道新幹線の軌道ラインデータは国土数値情報から取得、加工しました)。
大阪、名古屋、東京といった都市圏付近は人口が多いのはもちろんのこと、実際に新幹線に乗った際には、このような人口の疎密と現地の風景を見比べながら旅をするのもまた一興ですね。
鳥の飛翔高度
鳥類にGPSを取り付けて、鳥の行動を調査する研究もあったりしますが、たとえば、そのGPSによって高度情報が取得できていれば、鳥の飛翔高度を断面図で示すこともできます。
次の図はオナガガモ(Northern Pintail)に取り付けたGPSのデータで、日本の東北地方から北海道、樺太へと移動し、最終地点はカムチャツカ半島まで移動しています(データはMovebankより取得、加工しました)。断面図内の茶色部分は陸地、緑のラインがオナガガモに設置したGPSによる高さを示しています。また、図中A-B間は日本の東北地方から北海道北部までの飛翔、B-Cは宗谷海峡を渡って樺太へ移動する飛翔、C-Dは樺太内の移動、D-Eは樺太からオホーツク海を渡ってカムチャツカ半島への移動になっています。
陸地の移動では概ね地形の起伏に飛翔の高さが沿っているのがわかり、海域ではあまり高いところを飛んでいないことがわかります(ただし、GPSによる記録は必ずしも飛翔中であるとは限りません。もしかすると水面に降りて休憩したり餌を獲っていた可能性もありますので、データの解釈には注意が必要です)。
このように見せることで、鳥の移動の状況が把握しやすくなるのではないでしょうか。
おまけ
最後に問題です。次の図は一体何のデータの断面を示したものでしょうか。ぜひ考えてみてください。
- ヒント①とあるルート上の標高を表しています。ルートの全長は1,100,000m(=1,110km)ほどありますね。
- ヒント②断面が描かれていない部分は標高が0m。・・・ということは?
答え
答えは、羽田空港から新千歳空港までの航空ルート上の標高断面図でした。ルートは弊社メンバーが東京からの帰札時フライトでGPSで取得したものになります。地図と合わせて示すとこんな感じですね。
離陸直後の断面がないエリアは東京湾、着陸直前の断面がないエリアは津軽海峡をそれぞれ示しており、途中の1000mを超える山岳地帯は福島県北部、吾妻連邦をなす山地や奥羽山脈を示していることがわかります。ちなみに、断面図上にGPSのトラックポイントを表示すると、図のように離陸から着陸までの飛行高度も合わせてみることができます。
おわりに
こちらのツール、「標高断面図」と言っているものの、標高データ以外にもさまざまなデータの断面を見ることができます。このように断面を示すとまた違った見え方ができますね。
ぜひ、皆さんも様々なデータの断面図を作成してみてください。