
アジア最大のGISの祭典「FOSS4G ASIA 2024」参加報告
この記事でわかること
- FOSS4G ASIAのイベント概要
- アジアにおけるQGISの活用事例
こんな人におすすめ
- アジアにおけるQGISの最新動向について知りたい方
- FOSS4G イベントに興味がある方や参加してみたい方
はじめに
2024年12月15日から18日まで、「FOSS4G Asia 2024」がタイのバンコクで開催されました。

このイベントは、地理空間技術のオープンソースソフトウェア(FOSS4G : Free and Open Source Software for Geospatial)をテーマに、開発者やユーザー、研究者が一堂に会するアジア最大級のカンファレンスです。アジア各国から参加者が集まり、FOSS4Gに関する多彩なプレゼンテーションやワークショップが行われ、技術交流の場としても非常に盛り上がりました。
本記事では、イベントの概要やQGISに関するセッションをご紹介します。
FOSS4G ASIAとは
FOSS4G(Free and Open Source Software for Geospatial)は、地理空間情報技術に関するオープンソースソフトウェアを扱うイベントで、国際的な大会のみならず、各国ごとや地域ごとにも開催されています。
11月に開催されたFOSS4G Japanの様子は以下の記事にも掲載しておりますので、合わせてご覧ください。
その中で「FOSS4G ASIA」は、アジア地域のFOSS4Gユーザーに焦点を当てたイベントで、一番初めは2004年にタイ・バンコクで開催されてから、2014年から定期的に開催されています。
2014年はタイ・バンコク、2017年にはインド・ハイデラバード、2021年はネパール・カトマンズ、2023年は韓国・ソウルといった具合に、毎回アジア諸国が開催地となっていました。今年はFOSS4G ASIAの開催20周年ということで、20年前の開催地と同じくタイ・バンコクで開催というのも胸が熱くなりますね。
今回のFOSS4G ASIAは2024年12月15日〜18日の期間で開催され、15日はワークショップデイ、16、17日はコアデイとしてポスターセッションや口頭発表が行われました。18日はコードスプリントデイとなっています。

会場はバンコクにあるシーナカリンウィロート大学で行われました。

今回のFOSS4G ASIAではGeneral Presentationが50件、Academic Trackが11件、Poster Sessionが13件、Keynote Sessionが9件、Workshopが9件という、盛りだくさんの内容となっていました。参加者は200名以上だったようです。
ワークショップ
15日のワークショップは、さまざまなツールやソフトウェアについて講師が前で説明しながら、参加者は自分たちのPCで操作を行うハンズオン形式の講習になっており、午前中に5つのコース、午後に4つのコースが開催されておりました。
直接QGISに関わるワークショップはありませんでしたが、比較的QGISとも関わりの深い「Basic Python for Geospatial」という講座を紹介します。PythonはQGISのあらゆる処理でも使われていますし、QGISのプラグインを作成する際にも必要になる言語です。
ワークショップの内容は、Pythonを触ったことがない人向けの内容で、Jupyter notebookを活用しながらPythonの実行方法や、コードの書き方、GeoJSONファイルやShapefileなどのGISデータを読み込んで図化したり簡単な空間解析処理などをPython上で行っていきました。
Python初心者の方でも安心してついていけるような内容となっていました。

メインセッション
16日、17日はメインセッションとしてポスターセッションやキーノートセッションや口頭発表が行われました。
4会場に分かれて同時にセッションが行われ、興味のあるセッションの時間にその部屋に行って発表を聞くという感じで進められます。
以下ではGeneral Presentationで発表されたQGISに関する4件の発表ついて、内容を紹介していきます。
The QGIS Shredder Plugin Inspired by Banksy’s Shredder: Sustainable shredder with no waste
MIERUNEの西林さんによるプレゼンテーションで、QGIS上のレイヤをシュレッダにかけたようにバラバラにしてしまうというプラグインを開発したという内容です。
決して高度なテクニックや技術の紹介というわけではないですが、会場の方もジョークたっぷりなプラグインに笑ってくれるのは、さすがFreeでOpenなコミュニティであることを感じました。

Empowering Citizen Scientists for Safer and Resilient Communities: A Story of Creating a Metro Manila Climate and Disaster Risk Atlas through QGIS and OSM
続いては、QGISとOpenStreetMapを活用した、マニラ首都圏の災害リスク地図の作成に関する発表で、フィリピン大学の地理学専攻の学生による発表でした。
マニラ首都圏をはじめとするフィリピンは、台風、地震、洪水などの災害が頻繁に発生する地域であり、効果的な情報共有の重要性が高まっているという背景の中で、さまざまな災害リスクやOpenStreetMapの建物データなどをQGISで可視化することで、建物密集地の危険性について紹介されていました。
さまざまな学術データがある一方で、最もその地域に対する知識を持っているのはそこに住む住民であり、そういった住民の知識を既存のデータと統合することで、より災害に備えた社会の構築を目指す中で、そのツールとしてQGISやOpenStreetMapの有効性が示されていました。

PWAGIS QGIS Plugins Development : Lessons learn to Free Open Source Solutions for Geospatial
こちらはPWA(Provincial Waterworks Authority)というタイの水道局による発表です。PWAでは、地域の水道管理のために商用のGISソフトウェアを30年間使用していましたが、オープンソースのQGISを活用することに移行した、そのプロセスと得られた知見についての発表でした。
オープンソースGISに移行することで得た一番のメリットはなんと言ってもライセンス費用で、PWAでは約200以上の地方オフィスにおいて有償のGISソフトウェアを使用していたため、それらのライセンス費用がかからなくなったことはかなり大きかったようです。
また、専用のQGISプラグインを開発し、各オフィスに分散していたデータを中央の管理局に集約し、そこでデータの品質管理を行うことが効率的に行うことができるようになったり、その時にQGISのトポロジチェッカーなどのツールは非常に役に立ったということで、有償GISからFOSS4Gへ移行の成功事例とといえる発表でした。

Hyperspectral Remote Sensing Data Analysis for Oil Palm and Nipa Palm Plantation Using EnMAP-Box open-source plugin on QGIS
最後に紹介するのは、ドイツ宇宙庁のEnvironmental Mapping and Analysis Program(EnMAP)から提供されている衛星データに含まれるハイパースペクトル情報を利用した、農地(アブラヤシとニッパヤシ)の自動分類に関する発表です。
ハイパースペクトルデータでは、従来の衛星よりも非常に細かく分類した波長を観測することができ、これにより人間の目では分類しきれない色の違いまで分割することができる技術のようです。
EnMAPの画像はオープンデータとして利用可能で、ハイパースペクトルデータはQGIS「EnMAP-Box」というプラグインを使って処理することができるので、ぜひ皆さんも触ってみてはいかがでしょうか。

おわりに
今回紹介した4つの発表のほかにも、QGISについて言及されている発表はいくつかあり、FOSS4Gの中でもQGISはかなりの地位を確立していることが再認識されました。
コアデイ1日目の夜にはガラディナー(懇親会)が用意されており、タイの伝統音楽の生演奏と舞踊も用意されていたり、日本のFOSS4Gでは味わえない体験もできました。

次回のFOSS4G ASIAは2026年(開催地未定)ですので、この記事を読んでFOSS4G ASIAが気になった方はぜひ皆さん参加してみてください。