DEM × QGISではじめる地形解析 「東京都デジタルツイン 島しょ地域点群データ」を使ってみよう
この記事でわかること
- 多摩・島しょ地域の「3次元点群データ」の可視化方法
- グリッドデータ(DEM)を使った解析方法
こんな人におすすめ
- QGISで点群データを可視化したい方
- QGISを使った地形解析に興味のある方
はじめに
2023年9月1日に東京都から、多摩・島しょ地域の「3次元点群データ」が公開されました。公開されたデータですが、以下のような種類のデータが公開されています。
- 点群データ
- オルソ画像
- 等高線
- グリッドデータ(0.25m解像度のDEM、0.5m解像度のDEM)
- 微地形表現図
上記データのうち、グリッドデータ(DEM)は地形解析を行うのに適したデータです。今回は、このグリッドデータ(DEM)を用いて、QGISで利用可能な地形解析を試してみたいと思います。
データの準備
地形解析を行う範囲として今回は、式根島の0.5m解像度のグリッドデータ(DEM)をダウンロードしました。ダウンロードしたデータは解凍しておきます。
解凍したデータをQGISにインポートして、メニューバーから「ラスタ」→「その他」→「仮想ラスタを構築」を選択します。「仮想ラスタを構築」のinput layersには、解凍しておいたグリッドデータ(DEM)を複数選択し、「実行」します。これで仮想ラスタが作成されます。
作成した仮想ラスタをレイヤパネルから右クリックし、「エクスポート」→「名前をつけて保存」を選択します。「ラスタレイヤを保存…」では、出力形式として「GeoTIFF」を選択し、出力ファイル名を任意のファイル名に設定したら「OK」します。これで、式根島のグリッドデータ(DEM)を1つのGeoTIFFファイルとして保存することができます。
1つのGeoTIFFファイルとして保存した式根島のグリッドデータ(DEM)をQGISで確認すると、下図のように描写されます。これで地形解析をするための準備が整いました。
地形解析
QGISを使用すると、以下のような地形解析を行うことが可能になります。
- 陰影起伏図の作成
- 傾斜量図の作成
- 傾斜方位図の作成
- 段彩図の作成
- 地形起伏指数図の算出
陰影起伏図
陰影起伏図は、地形の起伏を色や影で表現した地図の一種です。QGISでは「プロセシングツールボックス」→「ラスタ地形解析」→「陰影図(hillshade)」を選択し、日光の方向などを調整し、陰影起伏図を作成できます。
傾斜量
傾斜量は、地形の傾斜角を示すものです。QGISでは「プロセシングツールボックス」→「ラスタ地形解析」→「傾斜(slope)」を選択して傾斜量図を作成できます。
傾斜方位
傾斜方位とは、地形の傾斜が向いている方向を示すものです。 傾斜方位は通常、方位角で表現されます。方位角は、北を0度(または360度)として、時計回りに増加する角度で示されます。QGISでは「プロセシングツールボックス」→「ラスタ地形解析」→「傾斜方位(aspect)」を選択して傾斜方位図を作成できます。
段彩図
段彩図は、地形の高さを異なる色で区分して示す地図の一種です。この図は、地形の高低差を色の濃淡や異なる色調で表現することで、地形の特徴や起伏を視覚的に理解しやすくします。QGISでは「プロセシングツールボックス」→「ラスタ地形解析」→「段彩図(relief)」を選択して段彩図を作成できます。
地形起伏指数(TRI)
地形起伏指数(TRI:Terrain Ruggedness Index)は、地形の起伏や複雑さを数値化して示す指標の一つです。この指数は、特定の地点の高さと、その周囲の地点の高さとの差を基に計算されます。QGISでは「プロセシングツールボックス > ラスタ地形解析」→「地形起伏指数(TRI)」を選択して地形起伏指数(TRI)を算出できます。
さらにSAGAの機能を呼び出すことで、以下のような地形解析も行えます。
- 曲率図の作成
- 流域界の作成
- 水系網の作成
曲率図
曲率図は、地形の曲率を示す地図の一種です。地形の曲率は、地表の形状がどのように湾曲しているかを示す指標で、地形の微細な特徴や地形の形成過程を理解するための重要なツールとして利用されます。QGISでは「プロセシングツールボックス」→「SAGA」→「Terrain Analysis - Morphometry」→「Slope, aspect, curvature」を選択して曲率を計算します(傾斜量と傾斜方位も一緒に計算できます)。曲率のタイプとして、平面や断面といったタイプを選択することができます。
流域界
流域界とは、異なる流域(川の流れる範囲やその流れる水が集まる範囲)を分ける境界のことを指します。QGISでは「プロセシングツールボックス」→「SAGA」→「Terrain Analysis - Hydrology」→「Fill sinks(wang & liu)」を選択して流域界を作成します。流域界のほか、以下のラスタも作成されます。
- 窪地を除去したDEM
- 流下方向
水系網
水系網は、特定の地域の河川や支流、小川などの流水の総体やネットワークを指します。QGISでは「プロセシングツールボックス」→「SAGA」→「Terrain Analysis - Channels」→「Channel network and drainage basins」を選択して水系網(ベクタ)を作成します。注意点として、「Channel network and drainage basins」のElevationには、窪地を除去したグリッドデータ(DEM)を選択する必要があります(上述した「流域界」を作成する際に、窪地を除去したDEMが作成できるので、これを使用します)。
下図では、水系ラインの太さをフィールド「ORDER」の値によって変化させて描画しています。
おわりに
以上のように、QGISではグリッドデータ(DEM)を使った様々な解析が可能です。近年、航空レーザ測量による測量成果が行政から公開されるようになってきました。これにより、高精度な地形データを入手しやすくなり、地形解析による新たな発見や課題解決が期待されています。地形解析を通じて、地形特性や変遷の把握、地形災害のリスク評価、都市計画や土地利用の最適化など、様々な応用が期待できると思います。
みなさんもぜひ、航空レーザ測量成果を使った地形解析を試してみてください!