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航空機LiDARデータを地域防災や山村振興に役立てる〜能登半島地震関連データの公開〜

投稿日: 最終更新日:

この記事でわかること


  • 航空機LiDAR技術の活用状況

こんな人におすすめ


  • 防災や山村振興に興味のある方
  • 行政のオープンデータの取組に興味のある方

はじめに

林野庁と国土地理院は、令和6年能登半島地震への対応として、石川県能登地域を中心として航空レーザ測量と、そのデータ解析を実施してきました。

この1年は、速やかな復旧・復興に向け、被災自治体のサポートに専念するために自治体に限り、暫時のデータ提供を行ってきましたが、このたび、一連の業務が完了したことに伴い、データをより広く利用してもらえるようG空間情報センターにおいて公開を開始しました。

本稿では、公開したデータの解説と、公開データの今後の活用に向けた期待を述べさせていただきます。

公開したデータ

航空機LiDARの一般的な利用方法は、地形測量でありますが、森林・林業施策を担当する林野庁では、地形に関する情報のほか、森林に関する情報も分析し、公開しているのが特長です。

公開したデータの種類は以下のとおりです。

地形関係

  1. 航空機LiDARでおなじみの数値標高モデル(DEM)
  2. 地形の凹凸などを分かりやすくした微地形表現図
  3. 地震前後の標高差を分析した地形変化量データ
  4. 崩壊・堆積、亀裂の位置を記録した崩壊箇所等判読データ

森林に関する情報

  1. LiDARと同時取得された簡易オルソ画像
  2. LiDARの反射強度などから樹木の種類を分類しやすくした林相識別図
  3. 点群の標高差を利用し、樹木の高さを表した数値樹冠高モデル(DCHM:Digital Canopy Height Model)
  4. 林相識別図を基に樹木の種類別のまとまりを表した樹種ポリゴン

各種データの詳細は、森林GISフォーラムが運用する「森林資源データ解析・管理標準仕様書」をご参照ください。

図1.DEMで3D化したオルソ画像に、崩壊箇所等ポリゴンを表示した例。災害の発生状況や今後の災害リスクについて、住民にアラートすることができる。QGIS3.34を使用(以下、同様)。
図1.DEMで3D化したオルソ画像に、崩壊箇所等ポリゴンを表示した例。災害の発生状況や今後の災害リスクについて、住民にアラートすることができる。QGIS3.34を使用(以下、同様)。

公開データへのこだわり

航空機LiDARデータは、データ容量が大きく、そのまま閲覧するには不向きであることが課題です。このため、公開したデータ全てに対し、マップタイルの配信をセットにしています。

DEMに関しては、林野庁事業で公開した栃木県などにおいて、Terrain-RGBとして公開する先例もありますが、今回は、DEMにとどまらず、標高値の増減をラスタ値に持つ地形変化量データ、樹木の大小をラスタ値に持つDCHMもデータPNG化し、公開しているのが特殊な取組ではないかと考えております。このほか、樹種ポリゴンや崩壊箇所等ポリゴンもベクトルタイル化する徹底ぶりです。

また、一連の公開データは、林野庁職員がQGISとPython、GDALを使い、内製化を図ったことも特長です。この経緯については、後述します。

図2.データPNG化された地形変化量データを基に、土砂災害の規模を色分けした例。青色部分が崩壊し、赤色部分に堆積している様子を表している。一般的なラスタタイルと異なり、任意の閾値で色調等を選択できることがデータPNGの利点である。
図2.データPNG化された地形変化量データを基に、土砂災害の規模を色分けした例。青色部分が崩壊し、赤色部分に堆積している様子を表している。一般的なラスタタイルと異なり、任意の閾値で色調等を選択できることがデータPNGの利点である。

データの活用

いずれのデータもCC BYと互換性のある「公共データ利用規約PDL1.0」に基づくオープンデータとしております。商用利用するもよし、技術の磨き上げに使うもよしで、ご自由にお使いください。

他方、当庁としては、昨今のカーボン・ネットゼロの潮流をとらまえた森林資源を活用したビジネスの創出などを通じ、能登の山村振興に貢献いただくことや、令和6年1月の地震の後、9月に豪雨災害にも見舞われた能登の教訓を踏まえた、ハザードマップの見直しなどの地域防災力の強化、防災教育の振興などにもご活用いただけますとありがたい限りです。

また、データPNGの形式には、国土地理院の「PNG標高タイル」などに使われている変換式を採用しました。FOSS4G界隈では、Terrain-RGBがデファクト化しつつあるとされながらも、府省間で異なる仕様で公開してよいのかという悩みもありつつ、他方で、全国Q地図の運営者さんが公開しているgdal2NPtiles.pyがコード1~2行でタイル化できてしまう、という簡便さも相まって、今回はこれを採用しています。

もちろん、QGISではTerrain-RGBのほうが相性がいいのは間違いないのでしょうから、MIERUNEさんに教わり、rio-rgbify等を使ってTerrain-RGBも公開しています。

今回のように、データPNGをどんどん使っていきます!というスタンスでこれからオープンデータ施策を打って出る場合に、利用者側はどちらを使いたいか、という点は意見を聞きながら調整していきたいと考えております。使い途について、是非ともお教えください。

図3.データPNG化したDCHMで林相識別図を3D化した例。林相識別図を2Dでみる場合よりも、樹木の立体感が加わり、樹木の大きさの違いから、所有界を探したり、カーボンビジネスへの訴求にも使えると予想。データ容量の都合から、DEMとDCHMで公開をしているが、タイル間で計算を行い、DEM+DCHM=DSMとして使ったりできると、さらに幅が広がるかもしれない。
図3.データPNG化したDCHMで林相識別図を3D化した例。林相識別図を2Dでみる場合よりも、樹木の立体感が加わり、樹木の大きさの違いから、所有界を探したり、カーボンビジネスへの訴求にも使えると予想。データ容量の都合から、DEMとDCHMで公開をしているが、タイル間で計算を行い、DEM+DCHM=DSMとして使ったりできると、さらに幅が広がるかもしれない。

最後に

今回のマップタイルデータは、発注事業の完了検査に際し、職員自らデータチェックをやりやすくする目的で変換を行ったものです。何千ファイル/数100GBものtiffを扱うのは非現実的であり、FOSS4Gの力を借りることとしました。

航空機LiDARは、森林計画のみならず、砂防計画や都市計画、河川・道路管理などにおいても実施されています。gdal2tiles.py(派生形のgdal2NPtiles.py)も、その一つを担うものと認識しましたが、GDALやPythonをそこまで深く理解していない行政職員でも、大量のTIFFをGeoTIFFに変換し、マージし、タイル化するということを臆することなくやれるような環境を作ることも、分野横断的なデータ利用・公開の環境を整えるかもしれないと感じました。

林野庁としましては、今回の地域に限らず、どんどんオープンデータ化を進めてまいりますので、データ提供とデータ利用側でタッグを組んで、(技術を試すデータの供給と、試した技術のフィードバックを得て、)オープンデータ界隈を盛り上げていけたら幸いです。

この記事を書いた人
林野庁 室木直樹
林野庁 室木直樹

2015年に入庁し、2016年の平成28年熊本地震の対応でQGISと出会う。自治体支援や内部管理などあらゆる場面でQGISを使い、資料を地理空間化するオタクに成長。2022年から林野庁計画課でリモートセンシング技術の活用を担当し、オープンデータ推進の業務でMIERUNEと出会う。以降、FOSS4Gの沼に両足を突っ込んでしまった界隈人。GISとリモートセンシングに精通し、石川県能登地方出身であるという理由で、今回の業務を担当。

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