生物研究のためのGIS解析!メッシュを活用した生息適地推定
この記事でわかること
- メッシュ(グリッド)を用いた解析手法
- レイヤの属性に情報を集約する方法
- 生物の生息適地の解析手法
こんな人におすすめ
- GISで生物の生息地解析をしたい方
- メッシュ解析の基礎を学びたい方
はじめに
生態学や環境保護の分野では、生物の保全のために生息適地の解析が求められます。生息適地の解析には様々な手法がありますが、GISを活用することで地理的な条件をもとに生息適地を解析することができるため、より効率的な適地の把握が可能になります。
この記事では、QGISを使って生物の生息適地解析の手法を紹介します。
生息適地の解析手法
今回紹介する手法では、対象エリアをメッシュ(グリッド)で区切り、メッシュごとに傾斜角や植生などの環境条件を集計し、条件に合致する環境が1つなら1点、2つなら2点というように点数をつけて、その合計点が高いエリアほど好適地であると判断していく解析手法です。
今回は以下の環境を好む生物を想定して、生息適地の解析を行ってみたいと思います。ご自身の解析の対象とする生物の好む環境の情報を文献等から整理すると良いでしょう。
- 標高の高いところを好む
- 森林地域を好む
- 水場が近くにある環境を好む
上記の条件をGISを用いて抽出するために今回は、基盤地図情報 標高モデル(国土地理院)、国土数値情報森林地域データ及び河川データを用意します。対象とする種や条件に応じて使用するデータを用意してください。
生息適地の解析処理
メッシュの作成
まずは解析用のメッシュデータを作成します。メッシュは生息適地を行う調査範囲で作成を行います。
メッシュの作成は[ベクタ]→[調査ツール]→[グリッドを作成]を実行します。
設定内容は以下の通りです。
- グリッドの種類:長方形(Polygon)にします。
- グリッドの範囲:メッシュを作成するエリアを指定します。右の[▼]をクリックして、レイヤの領域やマップキャンバスで表示中の領域を指定したり、マップ上で範囲を指定することができます。
- 水平方向の間隔:格子1つ分の東西のサイズを指定します。ここでは50メートルとします。
グリッドサイズが小さいほどより詳細に解析をすることができますが、処理に時間がかかることもあります。対象とする生物の行動範囲や解析範囲の広さに応じてグリッドサイズを判断すると良いでしょう。
- 水平方向の間隔:格子1つ分の南北のサイズを指定します。ここでは50メートルとします。
- グリッドベクタの出力:データの保存先を指定します。
処理を実行すると、指定した領域、サイズのメッシュデータが作成されます。
条件1:標高の高いところを好む
1つ目の条件として、標高の高いところを好むということなので、メッシュごとに標高値を集計し、その平均値が150m以上であれば1点、そうでなけれは0点とします。
メッシュごとにラスタの値を集計するには、[プロセッシングツールボックス]から[ラスタ解析]→[ゾーン統計量(ベクタ)]を実行します。
- 入力レイヤ:メッシュデータ
- 入力ラスタ:標高のレイヤ(集計する値を持つラスタ)
- 計算する統計量:平均
- ゾーン統計量出力:データの保存先とファイル名を指定
処理を実行するとレイヤが出力されて、属性テーブルを確認すると「_mean」のカラムに平均値が入っています。
次に、この平均値が150未満か、150以上であるかで分類します。
属性テーブルからフィールド計算機を開きます。
- 新規フィールドを作成にチェック
- 今回はフィールド名:
dem
、型:[整数(32bit)]、長さ:10
とします。 - 式:
if( "_mean" >= 150,1,0)
以上設定して、OKをクリックすると、属性テーブルに「dem」という列が追加され、「_mean」の値が150以上なら1、それ以外なら0の値が入っています。以降の条件の点数もそのレイヤの属性に追加していきます。
条件2:森林地域を好む
2つ目の条件である「森林地域を好む」では、森林地域がメッシュ内にあれば1、なければ0としたいと思います。
メッシュ内に森林の地物があるかどうかの判定は[場所による選択]から行います。
- 選択する地物のあるレイヤ:メッシュレイヤ
- 空間的関係:交差する
- 比較対象の地物のあるレイヤ:森林地域のレイヤ
- 現在の選択状態を以下のように変更する:新たに選択
森林地域と重なるメッシュが選択されて、黄色くハイライトされます。
この状態で属性テーブルを開き、フィールド計算機を開きます。
- 選択中の地物のみ更新のチェックを外す
- [新規フィールドを作成]にチェックを入れて、フィールド名、型、長さを指定します。
- 式に
if( is_selected( ), 1, 0)
と入力します。
フィールド計算機の式に入力した関数is_selected( )
は、地物が選択されている場合TRUEを返すため、フィールド計算機を実行すると選択されているメッシュ(森林地域と重なっているメッシュ)には1、そうでないメッシュには0が入力されます。
条件3:水場の近くを好む
3つ目の条件である「水場の近くを好む」では、河川から100m以内のメッシュであれば1、そうでなければ0としたいと思います。
河川から100mのメッシュの選択は、先ほどの応用で、[一定距離以内の地物を選択]から行います。
- 選択する地物のあるレイヤ:メッシュのレイヤ
- 比較対象の地物のあるレイヤ:河川のレイヤ
- 地物がある範囲:100メートル
- 現在の選択状態を以下のように変更する:新たに選択
河川から100mの範囲のメッシュが選択されて、黄色くハイライトされます。
この状態で属性テーブルを開き、フィールド計算機を開きます。
- [選択中の地物のみ更新]のチェックを外す
- [新規フィールドを作成]にチェックを入れて、フィールド名、型、長さを指定します。
- 式に
if( is_selected( ), 1, 0)
と入力します。
フィールド計算機を実行すると選択されているメッシュ(河川から100mの範囲内のメッシュ)には1、そうでないメッシュには0が入力されます
合計点の計算
3つの条件の得点を合計して、生息適地の結果を算出します。
メッシュレイヤの属性テーブルから、フィールド計算機を開きます。
- [新規フィールドを作成]にチェックを入れて、フィールド名、型、長さを指定します。
- 式には、上記で算出した条件の点数を合計するように式を組み立てます。
“dem” + “forest” + “river”
と入力します。
フィールド計算機を実行すると、3つの条件の点数が合計された値のカラムが追加されています。
最後にこの合計得点ごとに色分けをします。点数が高いエリアほど生息適地であることが示されます。
おわりに
GISを用いて動植物などの生息適地を推定する手法を紹介していきました。
今回紹介した解析手法は、生息適地の選定にも、風力発電や太陽光発電の適地選定、災害リスクの判定、出店計画の分析といったさまざまな分析で活用することが可能です。
今回は、標高150m以上、森林地域が存在する、河川から100m以内という条件でしたが、このほかにも、「ある植生がメッシュ内に○ha以上存在していると1点」であったり、「傾斜角が○度〜○度の間は1点、○度以上は2点」など、様々な環境条件で試してみると良いでしょう。