
QGISでジオリファレンスを行う方法〜紙地図・画像を地図に追加する手順〜
この記事でわかること
- ジオリファレンスとは何か
- QGISでジオリファレンスを行う基本的な手順
- 地図画像を地理情報と結びつける方法
こんな人におすすめ
- 紙の地図やスキャン画像をGISで活用したい方
- QGISの基本操作はわかるけれど、ジオリファレンスは初めての方
はじめに
紙の地図やスキャンした図面などの画像データには位置情報が付与されていないため、GIS上で正しい位置に表示することができません。この問題を解決するのが「ジオリファレンス」という作業です。
この記事では、QGISを使って地図画像に座標情報を与える「ジオリファレンス」について、基本的な考え方と具体的な手順を紹介します。
ジオリファレンスとは
ジオリファレンスとは、画像や図面に地理的な位置情報(座標)を割り当てる処理のことです。 たとえば、紙の地図やスキャンした画像、PDF形式の図面などを、GIS上で正しい位置に配置したいときに使われます。
ジオリファレンスでは、画像の中にある特定のポイントと、実際の地理座標(緯度・経度など)を対応させます。こうしたポイントを「GCP(Ground Control Point:基準点)」と呼び、複数設定することで、他の地図レイヤと重ねて表示できるようになります。

また、QGIS 3.26からは、位置情報を持たないCADなどのベクタデータにもジオリファレンスを適用できるようになっています。
QGISでジオリファレンスをやってみる
今回は「国立国会図書館デジタルコレクション」で公開されている画像データから、明治時代の札幌市中心部の地図を使用して説明します。

ジオリファレンサの起動
ジオリファレンスにはいくつかのステップがありますが、順番に手順を追っていけば、迷わずジオリファレンスを行うことができます。
メニューバーの[レイヤ]→[ジオリファレンサ…]を選択します。

「ジオリファレンサ」が別ウィンドウで表示されます。

画面の説明
ジオリファレンサの画面は以下のようになっています。
- ジオリファレンスの実行:ジオリファレンスした画像データを出力
- ジオリファレンスの変換の設定:画像出力のパラメータ設定
- GCP(位置合わせ地点)の追加:位置を合わせたい箇所を指定
- GCP(位置合わせ地点)の削除:不要なGCPを削除
- マップの移動:表示中の画像へ移動

画像データの追加
まず最初の手順として、ジオリファレンスの対象となる画像データを追加します。ツールバーの一番左にある[ラスタを開く]をクリックしてください。

使用したい画像データを選択し、読み込みます。

読み込んだ画像が表示されます。

GCPの設置
それでは、実際にGCPを追加し、画像に位置情報を付与してみましょう。
ジオリファレンスの変換方法によって異なりますが、基本的に精度をさらに高めたい場合は、4点以上のGCPをバランスよく配置することで、より正確に位置合わせができます。特に、画像の4隅にGCPを分散させると、全体の歪みが少なくなります。
GCPの追加手順
[点を追加]をクリックし、ジオリファレンスの画面上で位置を合わせたい箇所を指定します。

「地図座標の入力」画面が表示されるので、[地図キャンバスから]を選択します。
![[地図キャンバスから]を選択する](https://images.microcms-assets.io/assets/6c4873527fd24450a0163b40e8e173f2/f7d511cbb34a496794ae5466480e0cb8/howto_use_georeferencer_07.png?w=1080&fm=webp)
QGISのマップキャンバスが表示されるので、「地理院地図」などの背景地図を参照しながら、先ほどジオリファレンサで指定した位置と同じ場所をクリックします。

「地図座標の入力」画面に戻るので、座標が入力されていることを確認して[OK]をクリックします。
![座標を確認して[OK]をクリック](https://images.microcms-assets.io/assets/6c4873527fd24450a0163b40e8e173f2/f589bc7087ab40ddb21a7003dcf8d3c0/howto_use_georeferencer_09.png?w=1080&fm=webp)
この作業を繰り返してGCPを複数設置しましょう。今回は画像の外側を中心として、9箇所のGCPを設置しました。

GCPテーブルでは、残差の値を確認することで精度を確認できます。「残差」とは、画像上の位置と地図上の位置との間のずれをピクセル単位で示す値です。残差が小さいほどGCPの位置が正確で、大きいほどずれが大きく、修正が必要となります。今回の例では残差が2~10ピクセルの範囲内に収まっており、十分な精度でジオリファレンスができていると判断できます。

ジオリファレンスの実行
GCPの設置が完了したら、ジオリファレンスを実行します。[変換の設定]を選択し、ジオリファレンスの各種設定を行います。

今回は以下のように設定しました。
- 変換タイプ:[多項式1(1次多項式)]を選択します。
※ 画像の変換タイプは、地図画像のピクセルを実際の地理座標に変換するための計算方法です。
- 変換先CRS:[EPSG:30172 - Tokyo / Japan Plane Rectangular CS XII]を指定します。
※この変換先CRSは、使用する地図の座標系(測地系)に合わせて設定しましょう。
間違ったCRSを選ぶと、ジオリファレンス結果が大きくずれてしまう原因になります。
- 出力ファイル:[•••]ボタンをクリックして、保存したいフォルダとファイル名を指定します。
- リサンプリング方法:[バイリニア法(2×2カーネル)]を選択します。
※ 画像のリサンプリングとは、画像の解像度やサイズを変更する時に、ピクセル数を調整する処理のことです。各方法によって、画質と処理時間が異なります。
- すべての設定が完了したら、[OK]をクリックします。

設定が完了したら、ツールバーの[ジオリファレンスを開始]をクリックして、変換処理を実行します。

QGISにジオリファレンス済みの画像データが追加されます。

正しい位置に重ねられているか確認するため、ジオリファレンスをした画像データの透過度を設定します。まずは、ジオリファレンス済みの画像を右クリック → [プロパティ] をクリックしましょう。
レイヤプロパティが開いたら、以下のように設定を行います。
- 左メニューから [透明度]を選択します。
- グローバルな不透明度:スライダーを調整し透過度を設定します(例:70%)
- NoData Value:傾いて黒くなった部分は、「Additional NoData Value」に「0」の値を設定することで透明にできるので、必要に応じて設定します。
- [OK]をクリックして適用します。

道路や河川、建物の位置など主要な地物を確認して、背景地図と概ね一致していたらジオリファレンスは適切に実施できています。
位置が大きくずれている場合は、GCPの位置や数を見直して、ジオリファレンスをやり直してみましょう。特に、GCPが画像の片側に偏って配置されていたり、GCPの残差が大きすぎたりする場合は、精度が低下してしまうので注意が必要です。

おわりに
ジオリファレンスは、一見難しそうに見えますが、手順を押さえれば誰でも行うことができます。
QGISを使えば無料で高機能なジオリファレンスが可能なので、手元の資料をデジタル地図として再活用してみてはいかがでしょうか。