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世界は本当にQGISを愛している…のか

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この記事でわかること


  • 各種データからQGISの拡大と進化を掘ってみました

こんな人におすすめ


  • QGISの良さを広めたい方&かみしめたい方に

はじめに

あなたがこれを読んでいるこの瞬間も、世界の誰かがQGISとさまざまな地域を探検しているのだろう。

2007年にわたしがはじめてみたQGIS(Quantum GIS)0.8は、まだまだ発展途上で、日本語データが入ったShapefileを開くと、まるで牡蠣に当たったかのようにクラッシュする不安定さがあった。 そのころのわたしとえいえばまだ”オープンソース”や”FOSS4G”なんて2ピコバイトも知らない凡庸なGISユーザーだったため「なんだか面白そうだけど、なかなか荒削りな”無料のGIS”だなあ」という印象だったことを覚えている。

Quantum GIS(QGIS) 0.8.1 TITANのスプラッシュスクリーン https://pigrecoinfinito.com/2015/12/23/splash-screen-qgis/
Quantum GIS(QGIS) 0.8.1 TITANのスプラッシュスクリーン
Quantum GIS(QGIS) 0.8.1 TITANのマップ画面 https://portailsig.org/content/presentation-de-qgis-080-titan.html
Quantum GIS(QGIS) 0.8.1 TITANのマップ画面

ところが、その呑気な評価はまたたく間に覆される。2010年代ころからの「ヒトと位置」にかかわる世界的な急激なニーズの増大と、開発コミュニティの多大な貢献により”オープンソースGISのエース”としてQGISは急激な進化を遂げた。それはまるで公園で息子と一緒に遊んでたあの子がワールドカップ得点王になったみたいな感じだ。

しかしこんな疑問が頭をよぎる。 本当にQGISは世界中で多くのひとが利用しているのだろうか?単なる想像力に甘えていないだろうか?ひょっとしたらわたしは2007年にQのマークがついた小さなドングルを異星人に埋め込まれてしまったのではないか?…と。

そこでこの記事では、世界的観点でのデータからQGISの成長と広がりについて読み解いていくことを目的とした。もしあなたの組織やグループで「QGIS?なにそれ流行ってるの?君だけが好きなんだけちゃうん?」といぶかしげな質問をうけたとき、この記事がささやかな助けになれば幸いである。

QGISの拡大をさぐる

まず、QGISの全世界の起動回数をみてみる。2022年からデータを集計しているQGIS Dashboardの起動回数を集計すると、年々増加傾向となっており、2025年は全世界で年に約2億回起動された。これは一日あたり約56万回、0.15秒に1回はQGISが起動されている計算だ。

つぎにQGISへの興味関心や活動成果をみてみる。Google Trendsのインデックスは年々増加傾向にあり、各国の主な政府機関のPDFについて絞ると約32900件もQGISの利用や活用について言及されている。また、2025年2月には国際連合などによって主権的GISとしてデジタル公共財(DPG)にも登録され、公益性や次世代に貢献するツールとしての役割が期待されている。

世界中の学術論文を検索できるOpenAlexのAPIを調査すると、2010年から2025年までQGISについて言及している論文は41910本ヒットし、増加傾向にある。

このほかにも、QGISが世界中ですんなり利用できる理由として、オープンソース…つまり、自由なライセンスであることのほかに、ユーザーインターフェースを37言語から選択することができることも重要だろう。また、ここにはない新しい言語の追加や翻訳を改善などにも率先して参加することができる

QGISの進化をさぐる

ではQGISはどのくらいのスピードで進化しつづけているのだろうか?

QGISはユーザーがプラグイン(拡張機能)を自作し、公式リポジトリで公開することが可能である。このプラグインの統計情報を集積しているQGIS Plugin Dashboardによると、プラグイン登録数は年々増加中で、現在主力のバージョン3用プラグインは2675個が利用可能となっている。また、最も人気のあるプラグインのQuickMapServicesは、2015年に公開されてからこれまで1000万回以上もダウンロードされている。

また、QGISのダウンロードサイト今後のリリース計画から得たデータを可視化してみた。2002年にバージョン0.1が発表されてから170回を超えるアップデートが行われ、近年では年に1回はLTR(安定版)がリリースされている。また、今後も2028年までv4.0以降のアップデートが計画されており、さらなる成長と機能強化が期待される。

この継続的なバージョンアップを支えているのは、強固な開発者コミュニティの存在が不可欠である。QGIS本体のGitHubでは、世界中の開発者から13000以上のスターが寄せられており、その評価の高さがうかがえる。また、GitHub における開発参加の統計情報をもとに、コミット数やコントリビューター数の年次推移を見てみると、大規模なバージョンアップや COVID-19 の影響による変動はあるものの、開発への参加は継続的に行われていることが分かる。

おわりに

このように、QGISの利用と進化はデータ上でも確実に進歩していることがわかった。

なお、今回はあえて比較対象に「R」や「GRASS」などといった比較対象は省いたため、QGISに関するスタッツがもつ意味は若干薄まっていることはご了承願いたい。もしQGISの成長や特徴をさらに深堀りしてみたい!という方がいれば、2025年12月現在この記事で用いたデータは誰でもアクセスできるので、さまざまな比較や検証をぜひトライしてみただければ幸いである。

この点を差し引いても、世界はQGISのことが大好きなようだということがわかり、わたしが悶々と抱いていた杞憂は希望に変わった。ああよかった。

とはいえ、一方的な片思い…つまり片方だけが盲目的な消費をすることは、往々にして悲劇をもたらすであろう。

QGISだけでなく、オープンソースの分野においてLakhani & Wolf(2003)が言う「創造性あふれる利他的貢献」の姿勢は、世界中の子どもたちとってもかけがえのない愛になるのでないだろうか。

この記事を書いた人
MIERUNE Inc. 古川 泰人
MIERUNE Inc. 古川 泰人

大学で動物生態学や科学技術コミュニケーションや世間の苦汁などを学びながらGISに出会い、民間企業→北海道大学研究員→MIERUNEを創業。このほかにも総務省地域情報化アドバイザーや国土交通省地理空間情報課ラボスペシャルサポーターなどの肩書きで、オープンデータやFOSS4Gに関する普及啓発活動も行っている。

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